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不法行為法を含む民事法関連の訴訟、具体的には、企業に対する欠陥製品の訴訟の評決について、陪審員各自の意見を聞くムルトノマ郡 (オレゴン州) 巡回上訴 裁判所のルーズベルト・ ロビンソン裁判官。 (AP/WWP) |
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破産と債権者の権利は、契約法の重要分野である。上の航空機は、2003年に破産申請を辛うじて回避したアメリカン航空のもの。 (© Scott Olson/Getty Images) |
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製造物責任訴訟を扱う弁護士ラルフ・G・ パチーノ弁護士が、大事故の原因となったと依頼主が主張するタイヤを見せている。2000年、ファイヤストーン 社が何百万本ものタイヤをリコールすることになった、数多くの損害賠償請求の1つ。 (© Robert King/Newsmakers/Getty Images) |
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マンハッタン家庭裁判所の親権に関する判決を待つ2人の子供。どちらの親が親権を取得するかを、裁判書が決めなければならない事例が、ますます増えている。(© Carrie Boretz/The Image Works) |
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マスコミの注目度が高いと、被告側弁護人は、事件に対する偏見を避けるために、しばしば裁判地の変更を求める。例えば、飲酒運転による自動車事故のような場合である。 (AP/WWP) |
民事訴訟は、刑事手続きとはまったく別のものである。
本章では、民事裁判に焦点を当て、民事法と刑事法の相違点や民事法の最も重要な領域、事実審に代わる紛争解決手段に目を向け、さらに民事裁判の各過程を順を追って取り上げる。
米国の法律制度には、刑事法と民事法との重要な相違がいくつかある。刑事法は、社会全体に対する攻撃的な行為に関する法律である。民事法は、主として、一般市民同士の義務に関する法律である。民事事件では、政府が民事訴訟の当事者になる場合も、時々はあるが、通常、紛争は民間の個人同士の間で起こる。刑事事件では常に、社会に対する犯罪を行ったとされる個人が、検察当局によって訴追される。
民事事件の場合、裁判所は、当事者間の特定の紛争を、双方の法的権利を決定することによって解決しようと試みる。次に裁判所は、被害者側の当事者に対し、金銭的損害賠償を与えたり、特定行為の履行ないしは自制を一方の側に命じるなど、適切な救済手段を決定する。刑事事件の場合、裁判所は、被告人が無罪か有罪かを決定する。有罪となった被告人は、罰金、拘禁、あるいはその両方の処罰を受ける。
場合によっては、1つの行為が刑事手続きと民事訴訟の両方を引き起こすこともある。例えば、ジョーとピートという2人の政治学者がアトランタの学会に出席するために、空港からタクシーに同乗し、市中心部のホテルに向かったと仮定する。車中で2人は、熱心に政治論議を始めたが、ホテルに着かないうちに、議論が白熱しすぎて、本当の喧嘩になってしまった。もしピートがタクシーを降りる時に、ブリーフケースでジョーの横腹を叩いたとしたら、ピートは暴行罪で告発されるかも知れない。さらにジョーは、ピートに対し、民事訴訟を起こし、医療費の支払いに十分な賠償金を請求するかも知れない。
連邦裁判所と州裁判所の双方において、民事事件は刑事事件よりはるかに件数が多いが、一般的に刑事裁判ほどマスコミの注目を集めない。それでも民事裁判は、しばしば社会の重要な政策問題を提起し、社会の中にある広範な意見対立を取り扱う。司法学者のハーバート・ジェイコブ(Herbert Jacob) は、民事法が扱う分野の広さについて『アメリカの司法』(Justice in America)で次のように要約している。「あらゆる契約違反、顧客に不満を残すあらゆる販売、回収できないあらゆる負債、政府機関とのあらゆる紛争、文書・口頭によるあらゆる名誉毀損、偶発的事故によるあらゆる負傷、あらゆる結婚の破綻、そしてあらゆる死が、民事訴訟の原因となりかねない」
かくして、2人以上の人の間のあらゆる紛争が、事実上、民事訴訟の根拠となりうる。訴訟の数はやたらに多いが、その大部分は次の5つの基本的な領域に属する。
民事法の主要領域は、契約法、不法行為法、財産法、相続法、および家族法の5つである。
契約法は、主として、2人以上の間で行われた自発的な合意に関する法律である。身近な例としては、特定の仕事の履行、品物の売買、住宅や事業所の建設や修繕などに関する合意である。これらの合意の基本は、一方の当事者の約束と、それに対する他方の当事者の約束だが、通常は、一方が他方のサービスないしは商品に対して、代価を支払う約束である。例えば、「ホット氏」が「クール夫人」と契約を結び、「ホット氏」が12月 10日に薪を切って「クール夫人」の家まで届けてくれたら、夫人は、25ドル払うことで合意したと仮定する。もし「ホット氏」が12月 10日に薪を届けなかったら、彼は契約に違反したことになり、「クール夫人」は、損害賠償を求めて彼を訴えるかも知れない。
多くの契約は比較的簡単で分かり易いものだが、契約法ないしは契約概念に基づく複雑な分野もある。そのような分野の一つに商法がある。商法は主として信用販売や割賦払いを含む売買に関する法律である。商法はまた、小切手、約束手形その他の譲渡性を持つ金融商品も扱っている。
もう1つの密接に関連した分野は、破産と債権者の権利がある。破産した個人ないし会社は、再出発するために、実質的に過去を清算して破産申請の手続きをとることができる。破産手続きはまた、債権者に対する公平性を保証するように企図されている。破産法は、ここ数年、立法府にとって大きな懸念事項になっている。連邦地方裁判所には、現在、破産審理を専門にする多くの裁判官が配属されている。
契約法の最後の分野は、保険契約である。これは非常に多くの人に関わる重要な分野である。保険業界は政府機関によって規制されており、業界独自の規則に従わなくてはならない。
「不法行為法」(tort law)は一般に、民事上の悪事と言える。これは損害をもたらしたり、社会が定めた基準に達しないような行為を対象にした法律である。
個人的な損害や身体的傷害に対する賠償請求が不法行為法の中心であり、伝統的に、自動車事故が、これらの請求事件の大部分を占めている。不法行為法を分類すると、最も急速に増大しているのが製造物責任(PL)の分野である。この分野は、食品、玩具、電気製品、自動車、薬品その他の多くの製品の欠陥から生じた損害に対し、製造企業に責任を負わせる手段として、ますます有効になってきている。
製造物責任に関する訴訟が増えた理由の一つとして、恐らく、立証の基準が変更されたことが挙げられる。従来は、いわゆる「怠慢」(negligence)(訴訟で明示される特定状況下での不注意、あるいは、普通払うべき注意を怠ったことと一般に定義される)を証明できなければ、相手から受けた損害に対する賠償を払ってもらえなかった。しかし、長年の間に、この怠慢という概念を適用する例は減ってきており、特に製造物責任訴訟がその傾向にあるといわれている。これに代えて裁判所は、「厳格責任」(strict liability)の基準をしばしば用いるようになったが、これは製造者に怠慢がなくても、あるいは注意を払っていたとしても、被害者は賠償を得られるということを意味する。
もう1つ、製造物責任に関する訴訟が増加した理由としてよく指摘されるのが、原告に有利な評決を出したときに陪審が与える賠償額の大きさである。損害に対して陪審が与える賠償は、補償的損害賠償と懲罰的損害賠償の2種類がある。補償的損害賠償は、修理費、治療費、入院費など、原告が実際に被った損失の補償を意図している。これに対して、懲罰的損害賠償は、被告人に対する懲罰ないしは当該行為が将来起きないようにするための警告を意図している。
賠償金額の高騰と、いわゆるくだらない訴訟の増加に対する懸念から、政府当局者、企業の幹部、利益団体、法曹界関係者の間で、不法行為法の改革を目的とした法律の制定を求める声が高まった。1990年代を通じて、多くの州が不法行為に関するさまざまな改革措置を立法化した。不法行為改革の提唱者である米国不法行為改革協会(The American Tort Reform Association)の報告によれば、各州は非経済的損害に対する賠償額を制限したり、懲罰的損害賠償に関する法律を修正したり、また「くだらない訴訟」を起こす原告を罰する法律を施行している。もう一つ、不法行為法の分野で急速に増えているのが医療過誤である。医学の大きな進歩にもかかわらず、医療過誤に対する賠償請求は増加する一方である。現代医学において進行中の問題としては、新しい治療法がもたらすリスクの増大と、専門医および病院側の人間味を欠いた対応の2つが挙げられる。今日の患者たちは、医療に高い期待を抱いており、医者がそれに応えられない場合、怒りが高じて医療過誤の訴訟を起こすかもしれない。
裁判所は、一般に、医療過誤の訴訟を解決する際、厳格責任の法理よりも、むしろ従来から採ってきた過失基準を用いる。これの意味は、法律によって医師に治療の成功を保証させようというのではなく、医師が一般に容認されている医療手段と合致する方法で治療しなかったことを、患者が証明できた場合に、その医師に責任を負わせるということである。容認された医療という考え方は州によって異なるが、このような問題は、裁判所がそれぞれのケースに応じて解決しなければならない。しかし、医師を含む専門家の行為は、本質的に合理性があるものと推定するのが慣習である。従ってこれは、損害を受けた患者側が裁判で医師に勝つためには、その医師の行為が合理的でなかったと証言する1人ないし複数の専門家証人の証言が、少なくとも必要となる。
伝統的に、不動産と動産とは区別されてきた。前者は通常、土地、家屋、建物などを指し、生えている農作物も含めてきた。そのほかのほとんどすべてのものは動産と見なされ、その中には、金(かね)、宝石類、自動車、家具銀行預金などが含まれる。 ローレンス・M ・フリードマンは、著書『アメリカの法』(American Law)の中で「法律に関する限り、財産という言葉は主に不動産を意味し、動産は大して重要ではない」と述べている。動産を専門に扱っている法律の分野は、確かに1つもない。それどころか、動産は、契約法、商法、破産法の中で扱われているだけである。
米国では、財産権は常に重要な地位を占めてきたが、今日の財産権は、単に何かを所有する権利という以上に複雑である。今日、財産という概念に含まれるものの中で、最も目新しいのは、財産を利用する権利である。
今日の財産法の重要な部分の1つは、土地利用に関するものである。土地利用規制の最も一般的なタイプは、都市計画の「ゾーニング」といわれる規制である。これは地方自治体を地域の法律により、用途区分に従って分割するやり方である。例えば、ある地区は住宅地域に、別の地区は商業地域に、さらに別の地区は工業地域に指定される。
初期の「ゾーニング法」に対しては、土地利用の規制は市の土地収用に当たり、憲法違反だとして異議が申し立てられた。「正当な補償なしに私有財産を公共の用途のために取り上げてはならない」と憲法は述べているからだ。「ゾーニング法」が、ある意味で、意のままに土地を利用する権利を土地所有者から奪うのは確かである。しかしながら、裁判所は概して、「ゾーニング法」は、憲法に違反する収用とは見なさないという判決を下してきた。今日、「ゾーニング」は、米国中のあらゆる規模の市や町で、避けられない現実となっている。都市計画者、市の役人は、都市地域が計画性と秩序のある市街地の発展のために、「ゾーニング」の各種条例は必要なものだと認識している。
相続法は、世代から世代へと財産をどのように継承するかを定めている。米国の法制度は、個人が自分の財産を好きなように処分する権利を認めている。一般的な処分方法は、遺言書の執行である。個人が有効な遺言を残した場合、裁判所はそれを執行する。しかし、遺言を残さなかった場合(または、不適正に作成した場合)、「無遺言」(intestate)での死亡になり、州が財産を処分しなければならない。
州による財産の処分は、州の制定法が規定する一定の仕組みに従って実施される。法律により、無遺言の財産は、死者の法定相続人、つまり、死者に最も近い親族に渡される。無遺言で死んだ人の中には、生存している近親者がいないことがある。その場合、死者の財産は、死者が居住していた州に帰属する。つまり譲渡されてしまう。州の制定法は、多くの場合、「また従兄弟」や大叔父、大叔母のような遠い親戚が相続することを禁じている。
州が規定した仕組みではなく、自分の望む通りに死後に財産が処分されるように、遺言書を作成する米国人がますます多くなっている。遺言書は公式文書である。細心の注意を払って作成しなければならない。その際、ほとんどの州では、少なくとも2人の証人が立ち会わなくてはならない。
家族法は、結婚や離婚、子供の監督・保護権(親権)、子供の権利などの事項を律する法律である。この法律が、毎年、多くの米国人の生活に影響を与えていることは明らかである。
結婚するのに必要な条件は、州法で規定されている。これらの州法には、伝統的に、結婚当事者の最低年齢、必要な血液検査や身体検査、結婚当事者の精神状態、婚姻許可証、料金に関する要件、それに待機期間が定められている。
かつて、婚姻の解消は非常にまれだった。19世紀の初期、いくつかの州は、議会の特別法によってのみ離婚を許可していたが、サウスカロライナ州だけは離婚を断じて許可しなかった。他の州では、配偶者の一方が離婚できる何らかの根拠を証明した場合に、離婚を許可していた。言い換えれば、離婚は、配偶者の一方が姦通、遺棄、あるいは虐待という罪を犯した場合に、無罪である他方の配偶者に対してのみ許可された。
20世紀に入り、離婚法は大幅に変更された。この変化は、制限的な離婚法から「無責(破綻)離婚」(no-fault divorce)への移行だった。これは2つの要因によるものだった。第一に、長年にわたり離婚希望者が増加してきたこと。第二に、かつて離婚者に押された烙印がほとんど消えてしまったことが挙げられる。
無責離婚では、当事者は、和解しがたい不和が二人の間に存在し、結婚がもはや存続可能ではないことを説明するだけでよい。無責離婚が認められるようになり、敵対的な性格の離婚訴訟が姿を消した。
婚姻の解消によって生じるそのほかの問題の中には、容易に解決されない問題もある。親権をめぐる争い、子供の養育費の支払いをめぐる紛争、および訪問権に関する意見の不一致は、裁判所が日常的に取り扱う問題になっている。今日の親権をめぐる紛争は、恐らく、無責離婚以前よりも、ありふれたものになり、争いの度合いが強まっている。何が子供にとって必要かが最優先されるが、裁判所は、もはや自動的に母親に親権を付与すべきだという解釈は行わない。親権が父親に付与される例が増えてきている。また、現在では、裁判所が離婚した父母双方に、共同親権を付与することが一般的になっている。
米国人の日常生活で、意見の相違はよくあることである。たいてい、これらの意見の相違は、法制度の外で解決できる。しかし、時に、意見の違いがあまりに深刻になると、当事者の1人は訴訟を起こす以外に解決方法はないと考える。
毎年、民事事件になるかも知れない何千件もの紛争が、裁判なしに解決されている。それは、訴訟当事者になるはずの人が、裁判以外の方法で問題を解決したか、あるいは原告になるはずの人が提訴しなかったからである。裁判に頼るのか、争いをやめ和解しようと試みるのか、あるいは、単に問題を忘れるのか、という決断に迫られたとき、多くの人は単純な費用対効果で決めようとする。つまり、裁判にかかる費用と、勝訴により得られそうな利益を、天秤にかけるのである。
実際には、裁判手続きのすべてを利用する人はごく少数である。それどころか、ほとんどの事件は、本格的な裁判に至ることなしに解決される。民事事件では、裁判の進展は遅く、多額な費用がかかる可能性がある。多くの分野で未審理の事件が山のようにたまっていて、1つの事件の公判が始まるまで、3 年から5年もかかってしまう。加えて、民事事件の裁判は極端に複雑な場合がある。
裁判費用を考えただけでも、訴えを起こそうとする人の意欲をなえさせるのに十分である。敗訴する可能性は常に存在する。たとえ原告が勝訴しても、判決が履行されるまで、長い間待たされる恐れが常にある。そして、そもそも判決が完全に履行されるかどうかも分からない。言い換えれば裁判は、当事者にとって、単に新しい問題を次々と生み出すだけかも知れない。こうしたあれこれの理由で、紛争解決の代替手段についての議論がますます高まっている。
「代替的紛争解決」―いわば法廷外の解決策―を支持する声は、大企業から弁護士、個人に至るまでどんどん大きくなっている.「企業国家・アメリカ(Corporate America)」は、時間と金のかかる法廷での闘争を、複雑な紛争を解決する唯一の手段とはしたくないのである。さらに、事件をより早く解決したい時や、特定事項を機密扱いにしたい時、弁護士はますます頻繁に、調停や仲裁などの代替手段を検討するようになった。そして個々の市民も、家族間の紛争、近隣とのもめごとや消費者の苦情などを解決するため、地域の調停サービスに助けを求めるケースが増えている。
代替的紛争解決の手続きは、さまざまな形態のもとで行われる。これらの形態は通常、「民間型、裁判所照会型、および裁判所付属型に分類され、後者の2つは、まとめて裁判所関連と呼ばれることが多い」と『法廷管理と運営ハンドブック(“Handbook of Court Administration and Management”)』 の 著者スーザン・ケイタは記している。つまり、「民間型」の手続きの中には、裁判所から独立して機能するものがある。「裁判所照会型」の手続きも裁判所の外で行われるが、それでも裁判所とある程度の関係を維持している。「裁判所付属型」の場合は裁判所が手続きを行う。「代替的紛争解決は、その形態および紛争の争点の種類によって、任意にも強制的にもなる。それらに拘束力を持たせることも、また出された決定を控訴することもできる。当事者間の合意、裁定、あるいはその両方の組み合わせも可能である」とケイタは述べている。広く利用されている代替的紛争解決 の手続きには、調停、仲裁、中立的査定、ミニ裁判、略式の陪審裁判、および民間裁判がある。
調停 調停とは、私的な、秘密扱いで行う手続きである。紛争当事者が争点を特定し、明確にして、合意に至れるように、公平な第三者が手助けをする。調停者は、裁判官の役を務める訳ではない。むしろ、最終的な解決に責任を持つのは、当事者自身である。
調停は、紛争当事者同士が継続的な関係にある場合に、特に適している。たとえば、家族間、隣人同士、雇用主と従業員、家主と借主の間などの紛争である。調停は、離婚訴訟の際も、手続きを対立的なものから協力的なものへと変えるうえで有益である。親権や訪問権も、調停を通して解決されることが多い。また、保険会社が関係する人身および財産に関する請求は、多くの場合、調停を通して解決されている。
仲裁 仲裁手続きは、裁判に訴えるのと似ている。仲裁人と呼ばれる公平な第三者が、紛争当事者の双方から説明を聞いた後、事案をいかに解決すべきかを決める。裁判官も陪審もいない。その代わり、紛争当事者の双方が選んだ仲裁人が、最終的な判断を下す。仲裁人は、あらゆる種類の専門家から選定され、しばしば無償で時間を提供して、問題解決にあたる。
紛争当事者が仲裁を選択する理由は、時間と費用が節約でき、裁判所の審理よりも非公式な形だからである。たいていの仲裁は、長くても4カ月後には終了する。これに対して、裁判所の判決は半年から数年かかる。
仲裁は民間で、さまざまな消費者の苦情を解決するために利用されている。具体例としては、粗雑な自動車修理をめぐる争い、欠陥商品の返品問題、サービスに対する過剰請求などがある。また仲裁は、裁判所照会型と裁判所付属型手続きでも、ビジネス、商業、および雇用に関連する紛争を含む、いくつかのタイプの紛争を解決するために利用されている。
中立的事実認定 中立的事実認定は、非公式な手続きで、まず両当事者が合意した中立の第三者に紛争の調査を依頼する。たいてい、対象になる紛争は、複雑な問題か技術的な問題を含んでいる。中立の第三者が紛争の事実関係を分析し、拘束力を持たない報告や勧告の形で調査結果を示す。
この手続きは、会社内部での人種差別や性差別の申し立てを扱う場合に、とりわけ有益である。このような事例では、社内に激しい感情と軋轢を引き起こすことが多いからである。両当事者が同じ会社の従業員である場合、いわゆる「利害の衝突」に該当するので、上司や管理者は、差別の申し立てを公平に調査する能力が妨げられる可能性がある。会社は、公正さを欠くという印象を避けるように、従業員がみな納得できる解決が実現できることを望んで、中立の第三者に委ねることがある。
ミニ裁判 各当事者は、このミニ裁判では、双方から選ばれた代理人と中立的第三者で構成される審議団の前で、両当事者が裁判のような形式で立場を提示する。各審議団には、1人の中立的助言者がいる。ミニ裁判の目的は、争点を定め、現実的な和解交渉のための土台を築く助けとなることである。双方の代理人が、それぞれの立場と主張について概要を審議団に説明する。この結果、各当事者は相手の立場をより詳しく理解するようになる。双方の説明を聞いた後、助言者を含む審議団は、妥協点を見出すために話し合う。中立の助言者もまた、双方の言い分について勧告的意見を出すことができる。この勧告的意見は、当事者双方が拘束力を持たせることを書面で事前に合意していない限り、拘束力を持たない。
ミニ裁判の主な利点は、両当事者に解決策を模索する機会が与えられることである。これはまた、各当事者が代理人を立てて、詳細な情報を入手できることを意味する。
略式の陪審裁判 略式の陪審裁判とは、訴訟が提起された後、事実審理に達する前に行われる裁判所管理下の手続きのことである。各当事者は、陪審(一般に6人)にそれぞれの主張を提示する。各当事者の主張の概要が述べられ、要約された冒頭弁論と最終弁論が行われる。典型的な例だと、弁護人は、短い発言時間(1時間以内)が与えられるが、その内容は事実審理で許可される情報の提示に限定される。宣誓証人の証言は取らず、普通は記録も取らない。拘束力を持たないので、進行手順と証拠に関する規則は、通常の裁判よりも柔軟である。
陪審は、提示された主張に基づき、勧告的な、拘束力を持たない評決を下す。この場合の評決の目的は、弁護士およびその顧客に対して、事件に関する洞察を与えることにある。また、これにより、紛争を和解させるための根拠が示唆されることもある。紛争が略式の陪審裁判の手続き中、あるいはその終了直後に解決しないときは、裁判官の前で、「正式事実審理前協議」(後述)が開かれ、和解策について話し合う。
略式の陪審裁判の主な利点の1つは、時間の節約である。略式陪審裁判は、本格的な裁判が数日から数週間かかるのと比べて、大体、丸1日もかからずに終結するのが通例である。
民間裁判 これは、「代替的紛争解決」の1つの方法で、退官した元裁判官が審理し報酬を得る。この方法の提唱者は、いくつかの利点を指摘している。第一に、紛争当事者は、問題の処理に適切な資格と経験をもつ人物を選べる。第二に、当事者は当初の日程通りに問題が処理され、裁判所の過密スケジュールを理由に遅延されないことを保証される。最後に、負担する費用が全面的な訴訟よりも安く済む可能性が大きい。しかし、民間裁判を批判する人たちは、一部の退官した元裁判官が高い報酬を請求していることを懸念している。例えば、カリフォルニア控訴裁判所は、民間裁判官としてもっと稼ぐために、現職の裁判官を辞める者もいることを指摘している。
州裁判制度の特徴としては、特定の種類の民事事件を審理するために、多くの専門的裁判所が設立されたことがしばしば指摘される。家庭裁判所は、離婚、子供の親権や養育などの問題を審理するために設立されることが多い。多くの管轄区には、検認裁判所(probate court)があり、不動産権の確定や遺言に関する争いを取り扱う。
専門的裁判所の中で恐らく最もよく知られているのは、少額裁判所(small-claims court)である。少額裁判所は、訴額が所定の金額以下である事件に対し、管轄権を持っている。所定の金額と言っても、管轄権によって異なるが、最高額はたいてい500ドルか1,000ドルである。少額裁判所は、さほど複雑ではない事件を、ほかの多くの事実審裁判所よりも非公式に解決してくれる。訴訟手数料が安く、弁護士は必要ないと言われるので、一般の人も費用の面で利用しやすい。
多くの政府機関もまた、特定の種類の事件を扱う準司法的な権限をもつ組織を設立している。例えば、連邦レベルでは、連邦取引委員会(FTC)や連邦通信委員会(FCC)のような行政機関が、それぞれの権限範囲でなんらかの司法判断を下す。これらの機関で出された判決に対する上訴は、連邦控訴裁判所に回される。
州レベルでは、民事訴訟上の解決を助ける行政機関の一般的な例として、労働者災害補償委員会がある。この委員会は、従業員の負傷が業務上のものかどうか、その結果従業員は、労災補償金の支払いを受ける権利を持つかどうかを判断する。多くの州自動車登記局には、運転免許証の取り消しに関する決定を行うための聴聞会が設けられている。また各州に一般的に存在するもう1つの行政機関は、市民的権利に関する事案と申し立てられた差別事件を裁定するものである。
多くの紛争は、何らかの「代替的紛争解決方法」を通して、あるいは専門的な特別裁判所で、あるいはまた行政機関の手によって、解決される。だが、それでも毎年、多数の事件が民事裁判所までたどり着こうとしている。
一般的に言って、刑事裁判で用いられる対審主義は、民事裁判でも用いられるが、若干の重要な相違点がある。第一に、訴訟当事者は、「当事者適格」(standing)を持たなければならない。この概念は、訴訟を起こす者が、争訟の結果に個人的な利害関係を持つ者でなければならないことを意味する。さもないと、両当事者間には真の争訟性はなく、従って裁判所が判決を下すような事件にはなり得ないことになる。
2番目の大きな相違点は、民事事件で用いられる証明の基準は「証拠の優越」であり、刑事事件で用いられる厳しい「合理的な疑いの余地がない」という基準ではない。「証拠の優越」とは一般に、疑いや憶測を克服するに足る十分な証拠があることを意味する。明らかにこれは、刑事事件で必要とされるほどの証拠が、民事事件では要求されないことを意味する。
3番目の大きな相違点は、刑事裁判で被告に与えられる法手続きの適正な執行に関する広範な保障の多くが、民事訴訟には適用されないことである。例えば、民事事件では、どちらの当事者も、弁護士の支援を受ける憲法上の権利を持たない。合衆国憲法修正第7条は、「訴額が20ドルを超える」場合には、訴訟における陪審裁判の権利を保障している。この修正条項は州には適用されないが、ほとんどの州が、同じような保障を州憲法で定めている。
民事訴訟を起す者は「plaintiff」(原告)とよばれ、また、訴えられる者は「defendant」(被告)、あるいは「respondent」(応答人)と呼ばれる。民事訴訟は、「Jones v. Miller」(ジョーンズ対ミラー事件)というように、原告と被告の名前で表示する。原告の名前が最初に表記される。典型的な手順は、原告側の弁護人がまず、しかるべき裁判所に出向き、書記官に手数料を払い、訴状や申立書を提出する。訴状には、訴訟の根拠となる事実、申告損害額、請求する判決や救済を記載する。
どの裁判所が実際に事件を審理すべきかという決定には、管轄権および裁判地の概念が関係してくる。管轄権とは、裁判権を行使する裁判所の権限のことで、裁判地とは、裁判権が行使される場所を意味する。
裁判所が訴訟の対象物に対しても、被告に対しても、管轄権を持つ場合、管轄権の要件が満たされる。と言うことは、同じ事件に対する管轄権を、いくつかの裁判所が持つこともありうる、ということである。例えば、オハイオ州デイトンの住民が運転する車が、テネシー州内で、同州キングスポートの住民の運転する車に追突されるという交通事故に遭い、重傷を負ったと仮定する。オハイオ州の運転者と車に対する損害総額は8万ドルだった。このケースだと、オハイオ州の事実審裁判所が「事物管轄権」(subject matter jurisdiction)を持つので、オハイオ州は、ほぼ確実に被告に対する管轄権を取得することができる。加えて、テネシー州裁判所も恐らく管轄権を持つことになる。さらにこの事件では、「州籍の相違」が存在し、訴額が75,000ドルを超えているので、オハイオ州とテネシー州の連邦地方裁判所も管轄権を持つ。すなわち、管轄権だけで言うなら、原告はこれらの裁判所のどこでも訴訟を起すことができるのである。
しかるべき裁判地の決定に当たっては、偏見が介在しないように配慮した制定法の規定に従う場合もあるが、単に場所が便利だから決めたに過ぎないこともある。連邦法では、適切な裁判地は、原告、あるいは被告が住んでいる地域、あるいは損害が発生した地域と決められている。裁判地に関する州の制定法は州によって若干の違いがあるが、土地の問題がからむ場合は、通常、その土地が属する郡を適切な裁判地と規定している。ほかのほとんどの場合、裁判地は被告が居住する郡となる。
裁判地の問題は、裁判官ないしは陪審候補者が、明らかに持っている、あるいは持つ恐れがある偏見にも関係している。だからこそ弁護人は、特定地域での裁判に反対したり、裁判地の変更を要求したりするのである。この種の異議申し立ては、大々的に報道された刑事裁判によく見られるものだが、民事裁判でも見受けられる。
適切な裁判所がいったん決まり、訴状が提出されると、裁判所の書記官は、訴状の写しを召喚状に添付し、被告に送達する。召喚状は、州の法執行官事務所の職員、連邦執行官、あるいは民間の送達実施代理業者により送達される。 被告に対して召喚状は、「訴答」と呼ばれる回答を一定期限(通常30日)内に提出するよう指示する。被告がこれに応じないと、法廷不出頭で、被告が敗訴する場合がある。
こうした原告と裁判所の書記官と送達実施代理業者の簡単な行為により、民事訴訟は開始される。次に来るのが、実際の裁判に先立つ慌ただしい活動で、これは数カ月間続くことがある。事件の約75 %は、裁判まで行かずに、この期限内に解決される。
申し立て いったん召喚状が被告に送られると、被告側弁護人はいくつかの申し立てを行うことができる。無効の申し立ては、召喚状が適切に送達されなかったという理由で、裁判所に対して召喚状の取り消しを求めるものである。例えば、被告は、召喚状は州法で直接個人あての送達が義務づけられているのに、そうではなかった、と主張することもある。
原告側訴状に対しては、明確な陳述を求めるか、あるいはこれに異議を申し立てるかの2つのタイプの申し立てがある。その1つ、削除の申し立ては、訴状の一部が偏向している、不適切である、あるいは見当違いである、として、裁判所にその部分の削除を求める。明確な陳述を求める申し立ては、訴状をもっと具体的なものにするよう、原告が裁判所に対し善処を求めるものである。
民事訴訟でよく提起される4番目の種類の申し立ては、訴状の却下を申請するものである。この申し立ては、裁判所に管轄権、つまり事件を審理する権限がないことを主張したり、あるいは訴状の主張が仮に真実だとしても、原告は被告を訴えるための法的に適切な根拠を提示していない、と主張したりするものである。
答弁 裁判官が上記申し立てを認めなかった場合、被告は訴状に対する答弁を提出する。この回答には、原告の主張に対する承認、否認、抗弁、および反訴が含まれる。答弁書に承認が含まれる場合は、裁判の中で事実関係を立証する必要はない。しかし、否認の場合は、裁判の中で立証すべき事実問題を持ち出すことになる。抗弁とは、答弁書に記載した特定の事実により、原告は損害賠償を得ることは出来ない、と述べるものである。
被告はまた、反訴と呼ばれる別の訴訟を起こすこともできる。原告側の訴訟原因となった一連の同じ出来事が、被告側にとっても原告に対する訴訟原因になりうると被告が考える場合、被告は、原告の主張に対して、裁判で反訴しなければならない。この場合原告は、被告の答弁書に対する回答を提出することができる。その回答の中で、原告は、反訴に含まれている事実の主張に対し、承認、否認、あるいは抗弁することができる。
証拠開示(discovery) 米国の法制度は証拠開示の手続きについて規定している。すなわち、各当事者には、相手当事者が持っている情報を知る権利がある。証拠開示にはいくつかの方法がある。
正式事実審理前協議(The Pretrial Conference) 事実審理に先立ち、裁判官は、各当事者の代理人である弁護士と非公式に事件の争点について話し合うために、正式事実審理前協議(公判前の打ち合わせ)を召集することがある。この協議への出席を認められるのは、裁判官と弁護士だけで、たいていは裁判官室で開かれる。
この顔合わせで、裁判官と弁護人は、争いの余地のない事実問題に関して、了解に達することを目指す。これは「訴訟上の合意」(stipulation)と言われている。この合意の目的は、法廷で議論すべき争点を絞ることで、より効率的に公判を進行させることにある。また、双方の弁護人は、双方の主張の一部である証人と文書のリストを互いに共有する。弁護人と裁判官は、正式事実審理前協議を事件の和解のために利用することもできる。裁判官の中には、事件が公判まで行かずに済むように、積極的に和解を導く者もいる。
陪審の選定 連邦裁判所で行われる民事訴訟において、陪審裁判を受ける権利は、合衆国憲法修正第7条で保障されている。州憲法も同じようにこの権利について規定している。陪審裁判を放棄することもできるが、その場合は裁判官が決定することになる。陪審は伝統的に12人の陪審員で構成されるが、現在は必ずしもそうとは限らない。たいていの連邦地方裁判所では、民事事件の場合、陪審は12人未満の陪審員で構成されている。多くの州が、すべて、あるいは一部の民事裁判において、12人未満の陪審員で構成される陪審を認めている。
刑事裁判と同じように、陪審員は地域の人口構成を公平に反映し、無作為に選ばれなければならない。多数の陪審員候補者が裁判所に呼ばれる。そして事件が公判に進んだ段階で、さらに絞られた人数の陪審員候補者が、特定の法廷へ送り込まれる。
弁護士が特定の陪審員候補者に対する忌避を含む予備尋問を行い、その後、当該の事件を審理する陪審が選定される。弁護人は、陪審員候補者について理由をあげて忌避申し立てができるが、その場合、裁判官は、その候補者が公平かどうかを判断しなければならない。また、各当事者は、限られた回数だけ、理由をいっさい明らかにせずに陪審員を除外する「理由不要の忌避」を行使できる。しかし、連邦最高裁のこれまでの判断は、民事裁判で陪審員を人種や性を理由に失格させるために、この忌避を行使することは、合衆国憲法修正第14条の「法の平等な保護の保障」によって禁じられている、というものである。「理由不要の忌避」は、制定法ないしは裁判所規則によって回数が制限されており、通常、2回から6回までしか認められない。
冒頭陳述 陪審の選定後、双方の弁護人は冒頭陳述を行う。原告側の弁護人が先に始める。まず事件の概要、および原告側が証明したい事実について陪審に説明する。被告側の弁護人は通常、原告側の弁護人が陳述し終わった直後に冒頭陳述するか、あるいは原告側の主張の提示が完全に終わるまで待つか、のいずれかを選択する。待つ方を選択した場合、被告側の弁護人は、冒頭陳述から始まる被告のためのすべての主張を、切れ目なく提示する。冒頭陳述は、事件の概要を説明し、提出される証拠を陪審が、より容易に理解するために非常に重要である。
原告側の主張の提示 通常の民事事件では、最初に、陪審に対して自らの主張を提示すのは原告側で、最終弁論を最後に行うのも原告側である。原告側の弁護人は主張の提示に際し、通常、証人を呼んで証言させたり、文書その他の物的証拠を提示させたりする。
証人が召喚される場合、証人は原告側の弁護人から主尋問を受ける。次に被告側の弁護士が、証人に質問する、つまり「反対尋問」を行う機会が与えられる。最近、アリゾナ州最高裁判所は、民事事件で陪審が評決をもっとズムーズに下せるような措置を講じた。中でも重要なのは、陪審員が裁判官を通して、証人に書面で質問できるようにしたことである。他の州もアリゾナ州のこの新しいやり方を実施することを検討している。被告側弁護人による反対尋問に続き、原告側の弁護人が、再直接尋問を行うことができ、その後、被告側の弁護人が2回目の反対尋問を行うことができる。
一般的に言って、証人は実際に目撃したことだけしか証言できず、個人的な意見を述べることもできない。しかし、この一般的規則の重要な例外が、専門家証人である。専門家証人は専門分野の事項に関して意見を述べるために、特別に召喚される。
専門家証人としての資格を持つには、特定分野に関する豊富な知識がなければならない。さらにその知識を、公開の法廷で堂々と披露しなければならない。両当事者は、たいてい、見解の異なる専門家を法廷に呼んで証言させる。その場合、陪審は、どちらの意見が正しいのかを最終的に判断しなくてはならない。
原告側がすべての証拠を提出し終えると、原告側の弁護人は弁論を終了する。
指示評決(directed verdict)の申し立て 原告による証拠提出が終了した後 、被告は、しばしば「指示評決」を申し立てる。この申し立ては、原告が訴因を立証しておらず、従って原告は敗訴だ、という主張を意味する。裁判官は、この時点で審理を終了した場合、原告が勝訴できるかどうかを判断しなければならない。原告は十分に説得力のある証拠を提出しなかった、と裁判官が判断した場合、この申し立ては認められ、被告に有利な評決を下すよう陪審に指示する。かくして、原告はこの訴訟に敗北する。指示評決の申し立ては、提訴に対する却下申し立てに似ている。
被告側の主張の提示 指示評決の申し立てが却下された場合、被告は証拠を提出する。被告の主張は、原告の主張と同じ形式で提示される。すなわち、証人に対する直接主尋問を行い、文書その他の物的証拠を提出する。原告は、証人を反対尋問できる権利を持つ。続いて、再主尋問と再反対尋問が行われる。
原告側の反証 被告側が主張を提示した後、原告は、被告の証拠を打ち消すために、反証を提示することができる。
原告側の反証に対する答弁 被告側弁護人は、反証に対抗するための証拠を提出することができる。 この反証と答弁の繰り返しは、証拠が出尽くすまで続けられる。
最終弁論 すべての証拠が提出された後に、双方の弁護人は陪審に向かって、最終弁論、つまり証拠の要約を行う。原告側弁護人が最初と最後に弁論する。つまり、原告側弁護人が最終弁論を開始し、終了させ、その間に被告側弁護人が最終弁論を行う。この段階では、双方の弁護人は、しばしば相手方の証拠の信憑性を攻撃し、相手方の証人の信用を損なわせようとする。その際弁護人は、雄弁を振るい、陪審の感情に訴える。しかし、弁論は、公判で提示され、証拠に裏づけられた事実に基づいて行わなければならない。
陪審への説示 陪審審理が放棄されていないものと仮定した場合、最終弁論が終了した時点で、続いて陪審への説示を行われる。裁判官は陪審に対し、評決は公判で提示された証拠に基づいて行わなければならない旨を告げる。また、裁判官の陪審に対する説示には、訴訟の事実に適用される特定の法律上の規則、原則および基準に関する説明も含まれる。民事事件では、原告に有利な事実認定は、「証拠の優越」に基づいて行われる。つまり陪審員は、公判中に提示された証拠の重さを検討し、比較考量の上、原告側に証拠の優越があるかどうかを判断しなければならない。
評決 陪審は、隔離された陪審室へ退いて協議に入る。陪審員は、外部と接触することなく評決を下さなければならない。時には、協議が長引き、細かいことまで検討することもある。そのような場合、評決に達するまで食事と宿泊施設が提供される。評決は、詳細な議論と分析の後に達した陪審の合意を表す。時には陪審が誠意を尽くして協議しても、評決に達しないことがある。そうなった場合、裁判官は「審理無効」(mistrial)を宣言することになる。これは再審を行う必要があるという意味である。
陪審員が評決に達すると、陪審は公開法廷に戻り、裁判官に評決書を渡す。そして訴訟当事者に、評決が言い渡される。その時、陪審は評決に関する「調査」を受けるのが通例となっている。 つまり陪審員は裁判官から、評決に賛成かどうかを、個別に質問される。
公判後の申し立て いったん評決が出ても、評決に不服な当事者は、さまざまな戦術を繰り出してくる。敗訴当事者は、評決が出たにもかかわらず、判決を求める申し立てを提起することができる。この種の申し立ては、陪審が下したような評決は、分別のある人なら到底下せないものだ、と裁判官が判断した場合のみ認められる。
敗訴した方はまた、再審の申し立ても可能である。通常、再審の申し立ては、評決が証拠の重さに反していることを挙げる。裁判官は、陪審が達した評決が、提示された証拠により裏づけられていないことに同意したとき、この申し立てを認める。再審は、このほかいくつかの理由によっても認められる。2、3の具体例としては、過剰な損害賠償額、極めて不適切な損害賠償、新しい証拠の開示や、あるいは証拠提出に関する誤り―などである。
場合によっては、敗訴当事者は、判決からの救済を申し立てる。この種の申し立ては、裁判官が判決における誤記を見つけた場合、新たな証拠を発見した場合、あるいは、判決が欺瞞(ぎまん)により誘導されたと判断した場合に認められる。
判決と執行 被告に有利な評決が出ると、そこで審理は終了する。しかし原告に有利な評決が出た場合は、手続きは新しい段階に入る。民事事件では刑の言い渡しはないが、救済ないし損害賠償を決定しなければならない。この決定を判決と呼ぶ。
金銭賠償の判決が出たのに、被告が所定の金額を自分の意思で支払わない場合、原告は、判決の執行命令を出してほしいと、裁判所の書記官に要請することができる。執行命令は州の法執行官に送られ、執行官に対して、判決を履行するために被告の財産を差し押さえ、競売で売却せよと命じる。もう1つの執行方法は、担保の供託命令である。これは、判決の支払いに使用できる財産を確保するための法的権利である。
控訴 一方の当事者が公判中に法適用に誤りがあったと感じたが、再審を求める公判後の申し立てを裁判官から却下された場合、これに不服な当事者は上位裁判所に控訴することができる。恐らく、最も多い控訴理由は、排除すべき証拠を裁判官が認めてしまったこととか、提示されるべきだった証拠を裁判官が認めなかったこと、あるいは裁判官が陪審への適切な説示を行わなかったこと―などである。
弁護人は公判中に、それらしい誤りに対して異議を申し立てることによって、控訴に向けた地ならしをする。異議申し立ての事実は、公判記録に残って、訴訟記録文書の一部となり、控訴裁判所で検討されるかもしれない。控訴裁判所の判決は、下位裁判所に対して、最初の評決を執行するか、ないしは再審を行うか、どちらかを命じるものになる。



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