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米国の地理の概要 - 第1章
テーマと地域

  本書は米国の地理について記述したものである。米国の自然地理について考察を進めていく訳だが、最も関心を持って記したいのは地形や気候、土壌、植生ではなくその景観の中に刻まれた人間の足跡である。

  だからといって本書は自然環境を軽視するわけではない。というよりむしろ、自然環境は人々の行動パターンにしばしば重大な影響を及ぼすなど中心的な役割を果たす場合さえある。ニューヨーク市が重要な都市である要因の1つは、間違いなく世界屈指の自然港湾に位置していることにある。またフロリダ州南部は耕作期間が長く、冬が暖かいことからオレンジ、レモン、サトウキビの有数の産地となっている。

  それでもフロリダ州の気候が温暖だからといって、自動的にオレンジの産地になるわけではないし、ニューヨーク市の持つ港湾もこの都市が発展した多数の重要な要因の1つにすぎない。自然環境が人間に特定の好機を与えることがあるが、自然環境自身が人間の行動を決定するわけではない。一般的には技術水準が高度になればなるほど土地利用に関する住民の余力は大きくなる。

  米国の地理に該当するすべての項目をここで論じるのはもちろん不可能である。そこで私たちはこの国をいくつかの地域に分けることにした。各地域には相互に影響し合う複数の要素から派生した特徴がある。私たちはこれらの要素を用いてテーマを設定し、そのテーマに沿って地域ごとの章を組み立てた。

基本的なテーマ

  地域的、政治的境界線を超越する共通の文化パターンがいくつかみられる。これらのパターンは自然環境に大きな違いがあっても変わらないことが多い。これらの基本テーマが米国人による国作りの特徴なのである。

  都市化:多くの米国人は、そのほとんどが都市居住者であるにもかかわらず、自国が本質的には田園であると考えることを好む。そしてその田園性が、国としての基本的な活力を与えていると信じているように見える。

  このような田園の優位性という考え方もはや多いとは言えない。米国人の約70%が市街地に住んでおり、40%以上は人口100万人以上の都市に居住している。1990年の米国の農村人口は約500万人(全人口の2%)だった。1790年に初めて国勢調査が行われたときには米国人の90%以上が農民だったが、それ以降比率は着実に減少を続けてきた。

  本書では、都市化のいくつかの要素について重点的に論じる。都市は特有の形態、特有の配置を持っている。米国のほとんどの都市は長方形の格子状をしている。その理由の1つとして文化的な姿勢が考えられる。また自動車が登場する以前はこの方が効率的な輸送に適していたのである。さらにこの様式にすると土地の測量が容易であることなどもその理由である。都市の内部には工業や商業の中心地、住宅街、倉庫などが集まっている。

  都市は様々な理由で存在している。輸送の面で重要な役割を担っていることもあるし、重要な行政機能を提供している場合もある。レクリエーションや製造業の中心であるかもしれない。ほとんどの都市、特にすべての大都市は、多くの異なった都市機能を持っている。しかし、多くの都市は際だった特徴的な機能を持っている。だからこそその都市が発展し、そもそも成長したのであり、今日でも個性を与えられ続けているのである。

  過去100年間、米国では都市の発達が継続的に、そして時には急速に進んだ。都市人口の流動性の高まりと相まって、極めて無秩序な形で広がりつづける都市の膨張が促進された。いくつかの地域では都市の拡大の結果、複数の都市圏の境界が接触して混じり合い、都市の融合が起きている。

  工業化:米国の雇用の大部分は、直接または間接的に製造業に関係している。製造業が都市の成長にとって最も重要な要因だった時代に、ほとんどの都市は建設され、その主要な成長の期間を経験している。

  今日では、地域によって製造業の専門化が大きく進んでいる。1つには地域によって工業原料の入手のしやすさにばらつきがあったためである。また製造工程上のつながりも要因の1つである。つまり最終製品の部品を製造する企業は、移動コストをできる限り削減するために最終組立工場に近いだけでなく、互いに接近した場所に位置している。

  その他に多様性を生じた重要な要因としては、活用できる労働力やその技能、輸送関連施設の質、地域の政治的気風などの違いを挙げることができる。各地域は最も得意とするものを専門的に生産する傾向がある。そしてこの地域的な専門化に伴い、地域間の相互依存が生じた。郷土自慢の者たちが反論するかもしれないが、米国には製造業で真に自給自足できる地域がほとんどないのである。

  高い流動性:米国で経済の交流が高度に進んでいるのは、交通網が広く発達していることが大きな要因になっている。人もモノも地域内や地域間を自由に移動することができる。地域間の相互依存は大きい。それはこうした地域間の流通によってもたらされる。ただし比較的孤立した状態もまれに存在している。

  1年以内に引越しを経験した米国人は、全人口の20%近くにのぼる。多くは同じ地域内での住居移動だが、結果として地域間の大きな人口移動につながっている。

  1890年代までは辺境の農地を求めて西部への大きな人口移動があった。その後新天地の目標が変化し、都市部への移動が盛んになった。さらに最近になって米国経済は、いわゆる脱工業化の段階に入った。雇用増がみられるのは一次産業(採取産業)や二次産業(製造業)ではなく、主に専門職やサービス産業になった。このような雇用は立地条件の柔軟性がはるかに大きい。生活がより便利だと思われる地域で急激に拡大していった。

  資源:米国で条植え作物を栽培するなど大規模機械式農業を行なっている農地の約25%は、輸出用作物を生産している。さらに米国は工業用原料の膨大な需要のほとんどを国内で賄うこともできる。国際的に見て種類は少ないが、非農業原料に関しては主要供給国になる潜在能力を持っている。実際、世界有数の石炭輸出国でもある。

  米国では都市居住者が圧倒的多数を占めている。だが豊富な天然資源の採取には、都市以外の場所で大量の労働力を必要とする。さらに、特に農業に関しては、資源の開発に広大な土地が使われる。その結果自然環境とそれに対する人間の順応性の関係がはっきりと見て取れる。政府は土地利用と農業生産を管理し、多くの資源の開発を規制することでこうした自然と人間の関係に重要な役割を果たしている。これほど天然資源に恵まれているにもかかわらず米国が輸入原材料に依存するようになったのは、都市化および工業化に伴い必然的に原材料に対する需要が高まったことが一因である。

  高収入・大量消費:米国の高い国民所得は労働者の高い生産性によって達成されているが、そのためには機械を多用しなければならない。そして現代の機械は無生物エネルギー源を燃料としている。人口の流動性は大量のエネルギー源を使用することを意味する。人口の大部分がある程度均等に高収入を享受していることから、製品に対する需要も高まることになる。これらすべての要因によってエネルギーの消費量は増加するのである。

  米国人は世界の総エネルギー生産量の約25%を消費している。米国は消費する石油の半分を輸入しており、鉄鉱石と天然ガスの消費についても輸入分が増加している。また錫とアルミニウムのほとんどすべてとその他多くの鉱石も大量に輸入している。

  高収入は食事の内容にも影響を及ぼしている。世界の多くの国民に比べて米国人ははるかに多くの肉製品を食べ、きわめて変化に富む食事を摂っている。したがって牛肉と乳製品の生産は農業経済において特に重要である。

  環境への打撃:大量消費に加えて、資源が豊富であり資源に依存していることの帰結は、自然環境の著しい破壊である。何ら打撃を与えずに自然界から資源を採取することはほとんど不可能であるし、これらの資源の製造と利用はしばしば大気や水に害を与える。このような環境に与える影響が深刻さを増したため、開発と環境保全を巡る論争が活発になった。その結果妥協点を見出すために、開発と環境保全のいずれのプロセスにおいても政府がより深く介入するようになった。国内資源がますます希少になり採取と生産のコストが増加するにつれて、この論争はさらに重要になるだろう。

  政治的な複雑さ:米国の政治構造は複雑であり、ある行為や状況に対する権限は様々な意思決定機関に分かれている。このような意思決定機関には、選挙によって選ばれたものもあれば任命されたものもある。

  州より下のレベルでは政治構造の複雑さが行政サービスの効果的で効率的な分配に大きな問題を生じさせることもある。郡、郡区(タウンシップ)、市、町はすべて選挙によって選ばれた当局者が統治している。数多くの特別な行政機構が教育、公共交通、上水道のような特定のサービスの提供を監督する。その結果行政組織の構造がほとんど理解できないほど複雑になっている場合がしばしばある。特定の地域で1つのサービスを提供する際に、多数の政府機関が重複して管轄権を持つことがあるためである。

  文化的起源:米国は様々な文化的背景を持つ人々を基盤として成長してきた。アフリカ系米国人は国の文化に重要な貢献をしてきた。南西部ではヒスパニック系米国人、アメリカン・インディアン、ヨーロッパ系米国人が混じり合って独特の文化地域が発展してきた。中国人はサンフランシスコやニューヨークなどのような都市の生活に貢献した。この文化的多様性は、この国の特性を構成する重要な要素である。

地域

  地理学者は手際よく分類する方法として、つまり場所に関する複雑な一連の事実をより簡潔で意味のある一組の情報に系統立てる方法として、地域を使う。ほかの分類方法と同様、事実の中に理解できる様々なパターンを見いだし、さらに複雑なパターンの解明が容易になるなら、その地域分けは申し分のない分類方法と言えるだろう。

  地理学者にとって地域は結節地域か均質地域のいずれか、言い換えれば特性が単一の地域か複数の地域かのいずれかに分類できる。結節地域の特徴は、複数の地域がコミュニケーションや移動という線を通じてつながっていることである。これら一組の地域はたとえ互いに大きく異なっていても、関心事項を共有しているために互いに提携し合っているのである。

  これと対照的に、均質地域とはほかでは存在しないか、もしくは重要とは見なされない1つ以上の特徴が域内全体に存在する領域のことである。均質地域は、自然的・文化的特徴を含むその地域の総合的な環境の特徴を表している場合である。本書の中で一般的に用いられているのはこのタイプの地域である。

  ある地域の性格、つまり共にその個性を形作っている諸々の事象に関する我々の認識は、比較的少数の基準に基づいている。我々は米国の主要区域ごとに、そこに住む人々がいかにして(互いに、または自然環境と)影響を与え合い、独特の地域を創り上げてきたかを映し出す底流となるテーマを1つか2つ特定しようと試みた。地域の個性を示す最も重要なテーマは、地域ごとに大きく異なるかもしれない。乾燥と水による浸食に焦点を当てることなく米国南西部について論じることはできない。冬の寒さに触れることなく北部について、また都市と製造業を抜きにして北東部について語ることも不可能である。つまり一つの均質地域の全体を作り上げる重要な要素は、事前に定めた一組の指標に照らしてその地域が他の地域とどう違うかではなく、一連の諸条件がそこでいかに混じり合っているかという点にある。

  この手法をとった結果我々は米国を14の地域に分割し(地図1:35K)、それぞれの地域について1章を割いて論じている。その14地域とは、メガロポリス(巨大都市)、米国製造業中枢、取り残された東部、アパラチア山地(Appalachian Highlands)とオザーク台地(Ozark Plateau)、ディープサウス(深南部)、南部沿岸地帯、農業中枢、グレートプレーンズ(Great Plains)とプレーリー(Prairie)、無人の内陸部、南西部国境地帯、カリフォルニア、北部太平洋沿岸、北部地方、ハワイである。

  本書では事実には反するものの、各地域は概して明確な境界線を持つものとして示されている。私たちは各地域の「風土」を紹介したいと思っている。それは、その場所の持つ機能である。同時にそれは選ばれたテーマが意味する機能でもある。したがって例えば「メガロポリス」の極めて都会的な特徴は第4章で論じるが、「メガロポリス」を構成するニューヨーク、フィラデルフィア、ボストン、その他の製造業の中核都市に関する製造業の側面については第5章で述べる。通常「中西部」と呼ばれる地域の風土には、2つの重要な側面がある。それは都市化と工業化の側面と、田園と農業の2つの側面である。いずれも個別に詳しく論じるにふさわしい重要なものである。

  地域の境界線を固定することは米国の景観になじまない。この国のどこかには複数の地域の一部として線引きされた場所があるかもしれないが、多くの地域の境界線は地域の特徴の多くを備えたかなり広い移行地帯となっている。このような移行地帯では様々な特徴が微妙にまたは複雑に交じり合っている場合がある。どこか特定の地域に割り当てるのは難しい。「農業の中枢」と「グレートプレーンズ」の境界域の一部がその一例である。また「農業の中枢」と「ディープサウス(深南部)」の移行地帯の一部も同様である。

  地域の境界線も地域自体も固定されたものではない。定住パターンは変化し、社会は重要な新しい技術力を発展させ、政治パターンも手直しされる。地域はこれらのパターンを反映して、拡大や縮小を重ね、現れたり消えたりする。アメリカ大陸が発見された1492年に地域分けが行われていたら1776年や1865年、1991年などに行われた場合とまったく違う結果になっていただろう。2100年の地域分割図が2000年のものと似ているとはとても信じられない。

  本稿のために我々が創設した各地域を検証することによって、誰もが認識すべき下位区分が見えてくる。ただし地域によっては普通は予想もしないような組み合わせも見られるかもしれない。例えば「取り残された東部」について考えてみよう。ここはニューヨーク州のアディロンダック山脈とニューイングランドと呼ばれる米北東部の組み合わせである。いい加減な観察者の多くはニューイングランド諸州が強い文化的なつながりを持つ独立した地域として長い間認められてきたことから、自信を持ってニューイングランド全土をまとめて一つの地域とする。しかし移民の増加と都市化により、過去数十年間でニューイングランド南部は大きく変貌をとげているのである。

  いくつかの地域は政治的境界線と厳密に一致している。「ハワイ」の場合、その理由は明白である。「カリフォルニア」の場合は米国文化を変化させるという意味で主導的な役割を果たしていることと、地元の資源問題について州全体で政治的な「解決策」を提示している点で近隣のほとんどの地域とは一線を画している。「メガロポリス」は伝統的に郡の境界線に沿って範囲が定められている。

  すでに述べたように、各地域について論じた章は、それぞれ1つまたは数個の基本テーマをもとに構成されている。これらのテーマのほとんどは、少なくとも間接的には本書全体の基本テーマから引き出したものである。地域によっては、いくつかのテーマについてより強調されより明確な表現が使われている。各テーマはその地域に関する情報の取り扱いについて明確な基準を提供することを目的としている。ただし、多くの章では、米国または北米大陸に共通する地理的要素を容易に見つけることができるだろう。

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